【塩屋的住環境のつくりかた】#1 はじめに
2025.10.20

写真:山下雄登
こんにちは。小山直基といいます。神戸市内の西の海沿いにある、塩屋という小さなまちに2007年から暮らしています。普段は、同じ塩屋にある築100年を超える洋館、旧グッゲンハイム邸(以下、旧グ邸)の管理人をしています。ほかにも、シオヤプロジェクトという「町をいじって遊ぶ」活動を、旧グ邸のオーナーである森本アリさん(以下、アリさん)とともに2014年から続けています。住まいも仕事も塩屋にあり、日常生活のほとんどをこのまちで過ごしています。
2023年からは、塩屋に点在する築古の民家や空き家の活用を進める新しい活動を始めました。そのなかで、一筋縄ではいかない現実的な課題に何度も直面し、「どうすれば持続可能な形でこの活動を活性化できるのか」と考えるようになりました。その結果、行き着いたのが事業として宿泊施設を運営することでした。
塩屋にかつては宿泊施設がありましたが、2025年9月現在においては一つもありません。過去十数年の間に何人もの人が挑戦しましたが、残念ながら実現には至りませんでした。もし宿泊施設ができれば、まちの入口として訪れる人とまちをつなぐ接点になり、古家や空き家を改修して住んだり、ユニークな活動を始めたりする人も増えるでしょう。また空き家活用の活動拠点があれば、空き家のオーナーの相談にも乗ることができます。調べてみると、確かにハードルは高いものの、不可能ではないことが分かりました。ちょうどそのタイミングで空き家オーナーとのご縁をいただき、塩屋のなかでも希少な、特に築古の民家を借りることができました。現在はその改修工事の真っ最中で、この原稿を書いています。
私の活動に大きな影響を与えたのは、2007年から旧グ邸の裏手にある長屋で暮らしたシェアハウスの経験です。ニュータウン育ちの私は、住環境というのは考えたりすることもなく当たり前にあるものだと思っていました。しかし、当時旧グ邸同様に空き家状態でお化け屋敷同然だった長屋を、アリさんと手探りで少しずつ直しながら暮らすうちに考え方が変わりました。
壁を壊し、床に板を張り、壁をペンキで塗り、自分の部屋を自分の手で改装する。共同の食堂兼リビング、通称「グビング」では、毎日のように住人たちとご飯を一緒に食べ、夜な夜な話をしたり、音楽を聴いたり、映画を見て過ごしました。そんな暮らしのなかで、自分たちの態度や工夫次第で住環境を変えたりつくったりできる面白さを大きく感じました。
町の風景も同じです。同じくニュータウン育ちで初期の長屋住人だった現在の私の妻は「この町に住むようになって、毎日、豆腐屋さんで、魚屋さんで、八百屋さんで、肉屋さんで、会話をしながら買い物をするようになった。(中略)そして、道が狭いからいつの間にか知らない人と会話する」毎日が新鮮だったと当時を話します。日常のやりとりが、人と人のつながりを生み、まちの雰囲気も変えていく。また、ほかの長屋住人たちは高齢化で寂しくなった商店街にカレー屋やピザ屋をオープンさせ、まちに新しい動きを生みました。旧グ邸を拠点にして、まちが少しずつ変わっていく様子を間近で見て、空き家や古家は、人が関わることで活き活きと生まれ変わり、まちに新しい人や動きを呼び込む力があることを強く感じました。
廃屋の利活用を手掛けている廃屋ジャンキーこと西村組の西村周治さんは、「空き家は〝問題″ではなく〝現象″である」と言います。人口減少や新築の加速で空き家が増えるのは当然です。私は古家や空き家は地域資源であり、まちの可能性として捉えています。この地域にあるものを地域で使い続けることに意味を見出し、塩屋という小さなエリアに絞って活動することを大切にしながら、活動を始めたばかりです。
この連載では、空き家や古家活用の活動と、宿泊施設づくりの現場での経験を中心に、失敗やノウハウ、お金のことも含めてできるだけオープンに伝えます。ここでの試みが、どこかのまちや暮らし、住環境を楽しくつくっていく小さな活動のきっかけになればとても嬉しいです。