海と山のすきまの塩屋的住環境特集

【塩屋的住環境のつくりかた|お店編】田仲とうふ店

2026.8.31

photo : yuto yamashita

絹ごし、木綿、嵯峨豆腐に田舎豆腐(しま豆腐)、ゆし豆腐、とうふスティックなど……数々の種類が並ぶ[田仲とうふ店]。店の前を通ると、子どもも大人も自然と田仲さんと朗らかに挨拶を交わす様子がうかがえる。豆腐屋さんが町から姿を消しつつあって久しいが、[田仲とうふ店]には、その風を感じない。近隣の[ワンダカレー店]ではここの豆腐を使ったカレー、[Ryu Cafe]ではここの豆乳を使った豆花がメニューに並び、その美味しさは地域全体で愛され誇りにされているのだ。

店主の田仲盛秀さんは沖永良部で生まれ、兄弟が12人という大家族で育ったそう。「家族のために働きたい」と、15歳の時に京都で豆腐屋さんの道へ入った。「手に職をつけた方がいいと思って。豆腐屋さんは、朝も早いし水は冷たいし、一番きつい仕事やと思った。だからこれさえできれば、きっとそのあとなんとかなると思って」と、元気に当時を振り返ってくれた。「気候によって手のかけ方も変わるし、今も豆腐づくりは面白い」と、田仲さん。消泡剤を使わずに手づくりした豆腐は、みずみずしくしっかりとした味わいで、毎日食べたくなる新鮮さな美味しさだ。子どもたちと交流する中で生まれた豆腐を棒状にして揚げる「とうふスティック」は、世代を問わずファンが多い。「汁ごと食べる『ゆし豆腐』は、ぬくぬくのご飯にかけてもおいしいよ!」と、店頭で選んでいると食べ方まで教えてくれる。

[田仲とうふ店]に訪れてみると、周りの小道沿いに本や家具、植木が並ぶ不思議な光景に気づくだろう。実はこれ、田仲さんが次なる持ち主を探しているもの。田仲さん曰く、「最初は知り合いが、貴重な本をほかしてたから、かわいそうやと思って拾ってきて。それが始まりで、今ではガスレンジや冷蔵庫など、まだ使えるものを誰かに渡す中継地点みたいになってきたわ」とのこと。それだけでなく、朝8時には豆腐作りを中断し、塩屋の通学路に立ち旗振りを担う。塩屋を流れる谷川では、鯉のぼりや七夕飾りなど季節の装飾を飾る。「狭いT字路が危ないから、旗振りをするようになった。豆腐づくりは、そのあともできるしな。谷川の飾りは、疲れて帰ってきた時に、これを見たらほっとするでしょ」と、これまた朗らかに語る。豆腐を買いたい人だけでなく、何かを探している人、塩屋のことを知りたい人が、自然と[田仲とうふ店]に足を向け、まるで街の案内所のようになっている。豆腐づくりだけでなく全てには「困っている人をほっとけない」、そんな思いが根底にあるような。その気持ちは、塩屋の街をさりげなく支えてくれている。そんな、おいしい豆腐と街の日常に出会える「田仲とうふ店ワールド」へ、あなたも踏み込んでみてはいかがでしょう?