海と山のすきまの塩屋的住環境特集

【塩屋的住環境のつくりかた|お店編】ミツワヤ

2026.8.31

photo : yuto yamashita

鯉のぼりや七夕飾りなど季節の移り変わりを楽しめる、塩屋の谷川。そこに架かる小さな橋の手前に佇む[ミツワヤ]は、48年という時を刻みながら、街の人々に愛されつづけてきた。ずらりと並ぶ揚げ物の前に立つと、お店を切り盛りする二人が優しい声で「いらっしゃい」と出迎えてくれ、初めてでも懐かしさを感じる心地よさが漂っている。

はじまりは、1978年。実家の三ツ輪精肉店で揚げ物を手がけていた大橋達夫さんが独立し、妻・加代子さんと二人三脚で歩んできた。「パン粉をつけたり肉を捌いたり、下ごしらえは僕の担当。揚げるのは、奥さん」と達夫さん。ぜひ味わって欲しいのは「コロッケ」。じゃがいもと玉ねぎ、牛肉でつくる、開店当時から変わらぬ味。そして、鶏肉店でおしえてもらった手羽先のチューリップ加工でつくる「チューリップ」は、塩屋の風物を描いた「塩屋カルタ」で「チューリップ 最後の1個を にらみあい」と読まれるほど、世代を問わずすべての塩屋住人にお気に入りだ。「小学生の頃に親御さんと一緒に来ていた子が、中学生や高校生、大人になっても買いに来てくれる。結婚して奥さんを紹介しに来てくれた子も」と教えてくれた。

[ミツワヤ]が愛され続けている理由は、からっと揚がった揚げ物がおいしいからだけではないだろう。というのも、お店には二人の好奇心が満載なのだ。例えば、これまでコロッケに使っていたじゃがいもは、新聞で目にした農家さんに自ら連絡し仕入れていたそう。フライのれんこんは、雑誌の小さなコーナーで目にし「これだ!」と思った農家さんから。阪神・淡路大震災直後には、塩屋の復興に向けて働く建築従事者の人たちに向けてお弁当をつくり始め、それはその後も看板商品の一つになった。さらには、レストランのシェフから学んだレシピをもとにグラタンを手がけ、中国の友人から教えてもらったレシピをもとに豚饅にも挑戦。冬になると、店頭にはみかん。奥さんが見つけ取り寄せている、しまなみ街道で育ったものだ。

「おいしものを、誰もが食べられるように安くしよう」という心意気で、約15種類のメニューが並んでいる。「美味しいものを探したり、新しいメニューを考えるのが大好き。もうすぐ創業50年だけど、まだ新しいメニューができるかも」と加代子さん。最近の新メニューは「イワシフライ」。「駅前の魚一さんが目利きしたイワシを届けてくれるんです」と達夫さん。

小腹を空かせた小学生や晩のおかずを買う大人たち。今日もたくさんの塩屋住人で、小さなお店の入り口が溢れている。